2012年7月2日月曜日

インハウスでPRをやるようになって変わったこと




最近PRの仕事を卒業された庄司さんのエントリ「転職しました1/3 : PR会社でのデジタルビジネスの立ち上げについて」シリーズ 、それへのオマージュである赤い人のエントリ「少し時間が経ったし、書いてみようか…。」シリーズ、最近公開された高広さんの記事「アメリカで注目を集めている“Inbound marketing”とは何か(3)」を立て続けに読んでいい刺激をいただきました。

私がPR代理店をやめ、インハウスのPRとして仕事をするようになってから5年近くになります。

新規事業の立ち上げに携われる、ということが今の会社に入社する直接的な動機だったわけですが、今日はインハウスでPRをやるようになって変わったことを書いてみたいと思います。

1. コミュニケーションの対象
現在の会社に入社し、新規事業の立ち上げの第一段階が終了しようかというころに、とある週刊経済誌と、複数ページにわたる取材の企画が持ち上がりました。これはいい話と思い、企画の概要をまとめて実施の申請をしたところ、当時私の事業部のボスであった人から言われたのが「いい話だけど、そこで記事になっても直接のターゲットである若い女性層には届かない」という一言で、企画は却下されました。

PR代理店の感覚としては「こんないい話なのに」という思いがあり、経済誌の記者の側も取材を断られたことに対して、「まさか」という口調で非常に驚かれていました。

私が現在所属している組織が、 顧客との接点を直接持って サービスを提供する部門であることも関係しますが、「誰に向かってコミュニケーションするべきか」についての変化が生まれたできごとでした。(補足:大手経済紙での掲載は間接的にターゲットに届く事が期待でき、新規事業のメジャー感の醸成などの効果があるので、全く意味がないということはありません。)

2. ネタの考え方
コミュニケーションの対象に続いて変化が発生したのは、コンテンツとなるネタに対するアプローチの方法。

実は従来のマスメディア向けのネタ作りにおいても、基本的には読者や視聴者に受けるかどうか、という視点を加味して提案するので、考え方の根本が大きく変わったということではないのですが、特にソーシャルメディアをはじめとするここ数年のメディア接触の変化に伴い、よりダイレクトに既存/潜在顧客向けにどのようなネタを提供すべきか、という視点が加わりました。

対マスメディア向けの情報提供において、プレスリリースの情報そのままではなく、テレビや雑誌などに取り上げられやすいように、社会的背景や、調査データ、ユーザーの声などを加えた資料を作成して提案することがあります。最近ではそれに「プロモシート」という名称が与えられているようですが、要するに、プレスリリースとは異なる情報のパッケージにしてマスメディアにアプローチをとっているわけです。

ではソーシャルメディア向けにはどうしようか、という話になるのですが、最近とあるマーケターの方が話していたことが分かりやすかったので、それを例にとると、

「もしドラ」は、ドラッカーの「マネジメント」を売るための「メディア(媒体)」
「ハイボール」は「ウィスキー」を売るための「メディア(媒体)」

ということになります。こうした定義は後付けのものかもしれませんが、新たな顧客層に販売するために、より受容されやすい形をとり、それを「媒体」として、本来の販売目標を達成する、という売り方です。

これはそのままコミュニケーションにも置き換えることができます。

先にあげた例で言うと、プレスリリースではなくプロモシートを「媒体」として特定のマスメディアにアプローチをとるように、ソーシャルメディアで対象としたい層に自分事化されやすい、relevantな「媒体」を生み出してコミュニケーションをしよう、ということになります。

別の言い方をすると、あるサービスのメッセージをそのまま伝えるのではなく、そのサービスにまつわる会話やinteractionをソーシャルでスパークさせる、そのための「媒体」が何かを考えよう、ということです。

3. 落とし所のバランス感覚
代理店側ではなかなか把握できなかったのが、この落とし所の感覚だと思います。

例えば、大ヒットし、カンヌも受賞した「ISパレード」というtwitterキャンペーンが以前ありました。

それ自体はtwitterでの新しい体験を提供した素晴らしいものでしたが、この企画に参加した人が、「AUのスマートフォン、ISシリーズ」というものをどの程度認識したかについては疑問です。

twitter上でのエンターテイメントとしては成功を収めたこの事例も、キャンペーン目的がAUのISシリーズの認知獲得であった場合、「媒体」としての役割を果たせたかどうか、という視点で見ると、成功とは言えない可能性がでてきます。

他にもキャラクターとのコラボのように「媒体」自体が強すぎたり、本来伝えたいものとの距離が離れすぎていると、「バズったはいいけど、認知向上にどれだけ貢献できたの?」ということが発生します。

この落とし所に対するバランス感覚は事業会社やサービス、コミュニケーションのフェーズごとに異なるところだと思いますし、「話題になればそれでいい」という場合もあるでしょうが、それは本当にやるべきことなのか、ビジネスに対しての貢献ができるのか、ということは企画をする上で常に念頭に置いておくべきことです。

この距離感や落とし方に対する感覚が身についたのもインハウスで働くようになったからだと思いますし、冒頭で触れた当時のボスの一言があったからだと思います。

一方、マスメディア向けのものであれ、ソーシャルメディア向けのものであれ、事業会社の中のひとが企画すると、「こじんまり」したものになってしまう傾向があるのも確かなので、多少的外れであったとしても、新しいテクノロジーを活かした企画や、Out of boxな提案がもたらされることについては、代理店さんに常に期待しているところです。

とまぁ、当たり前と言ってしまえばそれまでのことばかりですが、いい刺激を受けたのと、最近思うところもあったので、まとめてみた次第です。

ご参考:

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